大判例

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東京地方裁判所 平成9年(ワ)1245号 判決

原告

木下泰之(X)

右訴訟代理人弁護士

馬場恒雄

高橋義道

村田彰久

被告

東京都世田谷区(Y)

右代表者区長

大場啓二

右訴訟代理人弁護士

橋本勇

事実及び理由

第三 当裁判所の判断

一  鈴木議長がした本件受理行為、大場区長がした本件交付決定と本件支給の各行為が原告に対する不法行為となるか否かについて

1  旧会派の構成員のうち原告を除く高橋幹事長ほか二名の区議が、旧会派を解消したとし、平成八年三月九日、幹事長高橋忍名義で、鈴木議長に対し、同日をもって旧会派を解消した旨の本件旧会派解消届を提出し、鈴木議長は、同日、これを受理したこと、また、高橋幹事長らが、同日、同幹事長、桜井征夫及び唐沢敏美を構成員とする新会派を新たに結成したとして、幹事長高橋忍名義で、本件新会派結成届を本件旧会派解消届と同時に提出し、鈴木議長がこれを受理したこと、なお、高橋幹事長が、同日、旧会派の解消を理由として、政務調査研究補助事業廃止申請書を大場区長に提出し、同月一一日受理されたこと、大場区長が、鈴木議長から、本件旧会派解消届及び本件新会派結成届があったことの報告(届出)を受けるとともに、新会派が同議長を経由してした本件研究費交付申請を受理し、平成八年四月五日新会派に対し本件交付決定をし、それ以降、新会派に対し本件支給を行っていることは、前記第二の一6、7に記載したとおりである。

2(一)  原告は、鈴木議長及び大場区長は、旧会派の高橋幹事長らと結託、共謀し、原告の議員活動を事実上排除すべく旧会派を解散させることを企図し、これを実行するため、高橋幹事長らが、鈴木議長の指示を受けて、原告に無断で違法に旧会派を解散し、新会派を結成した上、本件旧会派解消届及び本件新会派結成届をし、また、鈴木議長が本件受理行為を行い、さらに、大場区長は、本件受理行為を前提に、高橋幹事長らが鈴木議長を経由してした本件研究費交付申請を受理して、本件交付決定をし、本件支給を行ったものである旨主張し、甲二五の記載中にはこれに沿う部分がある。

(二)  しかしながら、前記第二の一記載の事実に〔証拠略〕を併せると、次の事実が認められる。

(1) 世田谷区地域においては、かねてから小田急線の立体交差事業の必要性が指摘されてきたが、昭和三九年以降、小田急電鉄と東京都が高架方式により右事業を展開する動きを本格化させると、高架反対・地下化推進の沿線住民の運動が広がり、区議会においても、昭和四五年と昭和四八年の二度にわたり、全会一致で地下方式により右事業を進める旨の決議が行われ、昭和五〇年に区長となった大場区長も、小田急線を初めとする区内高速鉄道の地下化方針を踏襲する姿勢を示した。右のような事情その他諸般の事情から、高架方式による右事業は昭和五〇年代中ころまでペンディングのまま推移した。

しかし、昭和六〇年代以降、中曽根政権下で、特定都市鉄道整備促進特別措置法や「日本電信電話株式会社の株式の売払収入の活用による社会資本の整備の促進に関する特別措置法」が成立すると、NTT株売却資金を活用しての私鉄沿線部の大規模開発等が政府により提唱されるに及び、高架方式による立体交差事業の推進を求める流れができてきて、平成二年には高架方式による右事業を前提とする東京鉄道立体整備株式会社が設立され、被告も同会社に出資を行うことになり、区議会において、その予算案が可決された。その後、東京都は高架方式により右事業を行う方針を決め、被告もこれを是認する立場をとるに至った。

高架方式による立体交差事業計画に対しては、地下方式による立体交差事業の推進を求める住民から建設大臣の行った右事業に関する都市計画事業認可取消請求訴訟や民事差止訴訟、関連する住民訴訟等が提起され、その是非をめぐって係争中であり、社会民主党世田谷総支部は、これらの訴訟を含めた地下方式による右事業の推進を求める市民運動への協力を活動方針としてきた。しかし、右総支部の高架方式による右事業計画に反対する姿勢は、次第に軟化していき、東京鉄道立体整備株式会社への出資問題が平成二年に区議会で審議された際には、当時の日本社会党世田谷区議団は、日本共産党世田谷区議団らとともに、政策上は地下方式による右事業の推進を言いながらも、出資には賛成する行為に出た。

原告は、これらの訴訟を推進する住民組織である「小田急線の地下化を実現する会」の活動家であり、平成七年四月の選挙戦でも、右住民運動組織を母体として立候補し、小田急線の地下方式による立体交差事業の推進を第一義的な公約として掲げて当選を果たしたものであり、右のような事態の推移の中でも、一貫して右住民運動を支持する立場を堅持した。

(2) 旧会派の内部においても、原告が党の方針と選挙公約どおりに地下方式による立体交差事業に計画を変更させるということで問題の解決を図るべきだとする見解をとったのに対し、高橋幹事長ほか二名の区議は、高架方式による立体交差事業計画に基本的には反対であるけれども、住民の要望を入れるという立場と大場区長と政策協定を結んだ与党であるという立場の両方を調整する観点から、大場区政に対しては絶対反対の姿勢をとらず、できるだけ住民の利益になる方向で条件闘争をするという方法によるべきであるとの見解をとり、高架方式による右事業計画に対する対応をめぐって両者間には溝が生じた。

(3) 平成八年一月ころから区議会において被告の平成七年度補正予算案及び平成八年度予算案の審議が行われたが、右各予算案には、高架方式による立体交差事業計画に係る予算が計上されており、旧会派の内部では、原告を除く高橋幹事長ほか二名の区議は右(2)記載の立場から右補正案に賛成するとの意見を持っていたが、原告は、右(2)記載の見解に立って右各予算案に絶対反対である旨主張し、両者の意見は対立した。高橋幹事長らは同年一月から同年三月八日までにかけて、意見の対立はあっても、何とか会派を維持するため妥協を図る方向で原告との間で論議を重ね、努力をしたが、原告は絶対反対の立場を崩さず、各予算案についての採決で反対票を投ずるというに止まらず、区議会で反対意見を述べ、平成八年度予算案に対しては減額修正案を提案するという行動に出ようとしたことから、両者間の対立は決定的となった。

(4) 平成八年三月一一日に区議会本会議で行われる平成七年度補正予算案の採決に先立って、同月八日、鈴木議長も出席して議会運営委員会理事会が開催されたが、高橋幹事長は、その席で、旧会派は平成七年度補正予算案に賛成する予定であるが、旧会派内部の意見対立が厳しく、最悪の場合には会派が分裂しかねない状況にあり、旧会派が賛成することについては変更が出てくるかも知れない旨を報告した。また、高橋幹事長は、同月八日、区議会事務局の関次長に、会派を解消する場合の手続について問い合わせをした。鈴木議長は、最悪の場合には旧会派が分裂するかも知れないとの報告を受け、区議会事務局に対し、同月九日は土曜日であるが、旧会派が分裂した場合に対応できるよう担当職員を待機させるよう下命した。

高橋幹事長らは、同月八日、右理事会の終了後においても、旧会派内で右の問題について議論を尽くしたが、原告は自説を変えようとしなかったため、高橋幹事長は、右のような対立が存続し、原告との間で妥協できる見込みが立たない以上、もはや原告と同一の会派で行動する意味はなく、これを解消する以外に方法はないと考えるに至り、その場で、もう別れざるを得ないのではないかという話をし、原告を除く他の二名の区議もこれに同調した。そして、高橋幹事長ほか二名の区議は、旧会派を解消することを確認し、右三名を構成員とする新会派を結成することとし、同月九日、先例に基づく届出及び本件規程に基づく届出として、幹事長高橋忍の名義で本件旧会派解消届及び本件新会派結成届を議会事務局の担当者を通じて鈴木議長に提出し、鈴木議長は本件受理行為を行った。

(三)  議会内の会派とは、政治的信条等を同じくする議員の任意の同志的集合体をいうものと解されるところ、右認定の事実によれば、旧会派は、構成員である原告と高橋幹事長ほか二名の区議との意見の決定的な対立から、同志的集合体としての実態を失い、解消されるに至ったものと認められ、本件旧会派解消届及び本件新会派結成届は、旧会派の解消の事実と高橋幹事長と原告を除く二名の区議が新会派を結成した事実を区議会議長に報告し、かつ、本件規程に基づき右各事実を区議会議長を通じて区長に届け出る手続として行われたものと認めるのが相当である。

鈴木議長は、平成八年三月九日にその日が土曜日で休日であるにもかかわらず区議会事務局の職員を待機させるなどして、本件旧会派解消届等の受理のため一定の配慮をしているが、それは、同月八日の議会運営委員会理事会の席において、高橋幹事長から、旧会派が分裂するかもしれないとの報告を受け、また、高橋幹事長から、区議会事務局に会派解消の手続はどのようにすればよいかとの問い合わせもあり、同月一一日の区議会での前記補正予算案の採決を直前に控えて、同月九日の土曜日にも会派解消の手続がとられることが予想されたため、右の緊急事態にも対処できるように万全の措置をとったというに止まるものであり、鈴木議長が右のような措置をとったことから、同議長が、職権を濫用して旧会派の運営に介入し、高橋幹事長らに指示して本件旧会派解消届等の手続をなさしめたものと推認することは到底できない。証人高橋忍は、旧会派の意思決定に当たって、鈴木議長ら会派以外の者からの介入、働きかけがあったということは一切ない旨明確に証言しているところであり、甲二五の記載のうち原告の前記主張事実に沿う部分は、右証言に照らしてたやすく採用することができず、他に、右認定を覆し、右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

3  前示のとおり、会派は議員の同志的集団であって、その結成、解消は、各議員の自由意思、会派の自治にゆだねられているものであり、先例に基づく区議会議長に対する会派の結成、解消等の届出は、会派の成立、解消等の法的要件ではなく、区議会議長が議会における事実関係を把握し、各会派に対し議会内における各種の便宜を供与し、議会の円滑な運営を図るために慣行として行われている事実上の届出にすぎず、それ自体は会派の構成員等その成立、解消に利害関係を有する者の権利義務に直接影響を及ぼす行為ではないと解される。また、本件規程は、会派の活動に公益上の必要を認め、届出があった会派に所定の研究費を支給するというものであり、本件規程に基づく区議会議長を通じての区長に対する会派の結成、解消等の届出も、同様に、会派の成立、解消の法的要件ではなく、区長が会派の状況を把握して研究費の支給を適切に行うため便宜的に行われる手続にすぎず、それ自体、会派の構成員等その成立、解消に利害関係を有する者の権利義務に直接影響を与える行為ではないというべきである。さらに、大場区長がした本件交付決定は、新会派に対して研究費を支給するという内容のものであるが、原告は新会派に所属するものではなく、また、個人として右研究費の交付を受ける地位を有するものでもないから、右交付決定自体が原告の権利を侵害するものということはできない。

なお、会派は、議員の同志的集団であって、議会活動という公益を担うとともに、議員活動のため研究費の受領等の便益を享受する主体となるものであるが、右会派の性格上、議員個人には、会派への参加、脱退の自由が保障されるべきものであることから、その解消について直ちに民法の社団に関する規定等が準用ないし類推適用されるものと解するのは困難であり、また、旧会派に、その成立及び消滅等について定めた自治規範が存在することを認めるに足りる証拠はないのであって(原告は、旧会派の解消手続に関して社会民主党の党則が適用になる旨主張するが、政党と旧会派は集団として別個のものであり、旧会派においてその旨の合意がされない限り、当然には右解消手続に右党則の適用はないというべきである。)、旧会派の解消手続が自治規範に違反するという問題が生ずることはないと考えられる。むろん、旧会派の解消の手続に適切を欠く点があったのではないかという問題はあるが、それは旧会派内部の問題であり、本件旧会派解消届等を受理するに当たって、鈴木議長がその手続的正当性を審査すべきものということはできない。

そうすると、鈴木議長がした本件受理行為及び大場区長がした本件交付決定及びこれに基づく本件支給の各行為それ自体が、原告に対する不法行為を構成することはないというべきであり、他に、鈴木議長がした本件受理行為、大場区長がした本件交付決定と本件支給行為が、原告に対する不法行為となるとすべき事情を認めるに足りる証拠はない。

第四 結論

以上の次第で、原告の本件請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 青栁馨 裁判官 増田稔 篠田賢治)

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